サブスクリプションにおいて、商品は「定期的に手元に届いて当たり前」の存在である。届く度に何らかのネガティブな気づきがあれば、それがささやかなものであっても不満や不信感が蓄積し、やがては解約につながりかねない。LTVの最大化には、ネガティブな体験を可能な限り低減させることもポイントとなる。「気づいたらすぐに対処」位のフットワークの軽さが問われるのだ。
「ペットを家族として愛せる世界へ」をミッションに、フレッシュペットフード「PETOKOTO FOODS(ペトコトフーズ)」のサブスクリプション販売を展開するPETOKOTO。社員の多くがPETOKOTO FOODSのユーザーであり、一般顧客からはなかなか寄せられないようなささいな気づきも社内の専用チャンネルで共有して速やかに改善。「顧客にとって何が嬉しいか」も深く理解しており、フードへの名入れや外装箱の色付けといった取り組みでUGCの発生と拡散も実現している。
サービス開始から3年で2000万食突破という躍進を支えているものは何か。梱包資材領域でパートナーを務めるshizai共同創業者兼取締役の油谷大希氏とともに迫った。
株式会社PETOKOTO デザイナー 国井 直枝 氏(写真左)
保護猫を迎えたのがきっかけでデザインのスキルを保護犬猫のために役立てたいという思いから、PETOKOTOのデザイナーに就任。商品企画・開発に携わりながらパッケージデザインから売り場のデザインまで幅広く担当。
株式会社PETOKOTO SCM部 三浦 ゆきか 氏(写真右)
複数のIT企業でのプロデューサー、プリセールスを経て2022年5月にPETOKOTO入社。2023年よりSCM専任に。共に暮らす犬猫に健康的なごはんを届けることをミッションに、配送・物流管理を担当。
細部まで統一されたブランディングの秘訣は「社内の一体感」。顧客目線で細やかな改善を重ねる
PETOKOTOは2015年に設立されたペットウェルネスカンパニーだ。現在、保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」、ペットライフメディア「PETOKOTO」、ウェルネスライフを食の面から支えるフレッシュペットフード「PETOKOTO FOODS」を展開している。中でも「PETOKOTO FOODS」はサービス開始から3年で2000万食を突破し、今年4月にはキャットフードの販売もスタートさせるなど、急成長を遂げている事業である。ヒトが食べる品質と同じ国産食材にこだわり、スチーム加熱・急速冷凍製法で食材本来の味や香り、栄養素を閉じ込めたフレッシュフードで、このような製造方法により着色料・保存料無添加を実現している。
こうした事業を運営するPETOKOTOは、「ペットを家族として愛せる世界へ」というミッションに基づいてWEBサイトや各サービスにおける様々なツールのデザイントーンを統一している。PETOKOTO FOODSのパウチや配送用外装箱も同様であり、細部にわたって丁寧なつくり込みがなされている。こうした商品開発について、PETOKOTOには担当チームで方向性を決定した後、会社全体でチェックするというフローがある。
パッケージについては、最も顧客の近くに位置するカスタマーサクセス部門が収集した顧客の意見やアンケート結果から浮かび上がってくる課題を改善点として反映。リリースから数カ月後にデザイン部門がカスタマーサクセス部門に顧客からの反響を確認するなど、顧客との双方向コミュニケーションをもとに作り上げている。
物流や配送、梱包資材の調達等の主軸を担い、2023年4月に新設された部署でSCMに携わる三浦ゆきか氏は、使い勝手に関わる要素に対しても顧客の声を元に細かな改善を重ねている、と語る。SCM部は調達した梱包資材の倉庫での保管や組み立て、配送の調整も担う。
油谷 支援パートナーである物流会社さんから、資材に対するご意見も寄せられますよね。
三浦 そうですね、資材の組み立て方などについて質問されることもあります。配送現場で組み立てしづらい、方法がわかりづらいといった事態が生じないよう、shizaiさんにご協力いただいて梱包手順書なども用意しています。
出荷数が増加しているPETOKOTO FOODSは、現在犬用4メニュー、猫用2メニューを展開。商品は冷凍状態での発送でありパウチへの名入れも行っているため物流周りの調整は複雑だが、手を抜かず細やかに対応しているのがPETOKOTOらしさでもある。
顧客の立場から見ると「届いて当たり前」の領域だからこそネガティブな体験にならないよう、一見してわからないような点についてもコツコツと改善を重ねている。新設されたSCM専門部署では、クレームゼロを目標とし「先回りの改善」も組み込むことを想定しているという。
ユーザーでもある社員達のフィードバックで品質を向上。ペット愛が梱包資材にも行き渡り、UGCの創出も
PETOKOTO社員のほとんどは、犬や猫と生活を共にしている。PETOKOTO FOODSを利用するユーザーでもあり、社内の議論でも顧客目線に基づいたリアルなフィードバックが寄せられる。届いた瞬間だけにとどまらず、毎日手に取るものとしての一連の体験を社員からフィードバックされることがPETOKOTOの強みにつながっているのだ。
国井 「ペットの名前が入ったラベルが曲がっていた」という報告が社員から寄せられたこともあります。お客様は多少気になる部分があったとしても「まあいいか」と済ませてしまったり、何も言わずに退会されることもあります。小さな課題であっても共有される現在の体制は、非常に良いと感じています。
一般顧客からは挙がってこないような細かな部分についても気づきを得られ、それを改善していく。ささやかであってもネガティブな体験を減らしていくことが、ユーザーの体験価値向上につながっているのだ。また、顧客がPETOKOTOのパッケージとペットを撮影した写真が、よくSNSにアップされている。これについても、ペットを愛するPETOKOTOだからこその顧客目線が背景にある。
国井 設計やデザインの際は、届いた瞬間から開封、保管、廃棄までをシミュレーションして、便利なのはもちろんですが、気分が盛り上がったり楽しくなるような体験となることを意識しています。外装箱のサイズ感についても、お客様の愛犬・愛猫が入りやすい大きさにすることで、配送箱としてだけでなく愛犬・愛猫とのコミュニケーションにもお使いいただけるように工夫しています。フードが入っている袋に関しては、サブスク会員様限定でお名前入りラベルになってお届けされます。一緒に暮らすペットの名前が入ったフードが届いたら、やはり嬉しくて写真を撮りたくなりますよね?特に現在はキャンペーンなどもしていないため、そういった設計がSNS投稿に繋がっているのではないかと思います。
ユーザーがどんなことにワクワクするかを肌で理解しているからこそ、パッケージにもこだわりが行き届き、その結果UGCが発生していると考えられるのだ。
油谷 SNSによくアップされていますよね。「ペットを愛する」姿勢がデザインから伝わってきて、写真を撮りたくなるのかもしれませんね。
国井 shizaiさんと連携を開始してから、以前は難しいとされていた外装箱の外側をPETOKOTOのカラーであるオレンジに色付けできました。それも社内外でとても好評なんです。
ユーザーにワクワク感をもたらすのに、外装箱の色も一役買っている。コーポレートカラーであるオレンジにすることができたのはshizaiでコストメリットが生み出せたためだ。色については何度も確認を行い、ムラなく鮮やかな発色を実現させた。
油谷 この色付けを環境配慮が可能なボタニカルインキで行っていることもポイントですね。
国井 shizaiさんはそういったプラスαの提案もしてくれるのでとても助かっています。パッケージは一度開発したらその仕様で継続して運用することが多いと思うのですが、より良いものがあったら案内してもらえる。そういった情報は私たちではキャッチアップできませんから、非常にありがたいです。
油谷 普段から御社とコミュニケーションを図って、やりたいことをお聞きしていますから、弊社としてもいろいろご提案できるんです。
資材開発の背景にあるPETOKOTOの価値観や姿勢を理解できるよう、shizaiではビジネスパートナーとして通常時よりコミュニケーションを図っているため、潜在ニーズを把握し先回りして提案を行うことが可能となっている。
shizaiではサステナビリティにつながる取り組みとして、売り上げの一部の寄付を通じてONE TREE PLANTED(世界中に木を植える活動)のサポートも実施。PETOKOTOの外装箱にもこの取り組みのマークがあしらわれている。PETOKOTOの顧客は動物愛護や自然保護への意識が高い層が多く、こうした手法もブランド理解深化につながっている。
ビジネスの全方位においてブランディングにこだわるPETOKOTO。コストとして見なされ、安価で簡素なものになりがちなパッケージについても、ブランディング表現の重要なツールとしてこだわりを持っている。
三浦 「ペットを家族として愛せる世界へ」が弊社のミッションですし、社員全員が犬や猫を家族に迎えているということもありますので、一個人、顧客としてそういう想いが強い人は、他社より多いかもしれませんね。
国井 梱包資材はコストカットの対象になりやすい部分だと思いますが、もっと薄く安価なものにしてほしい、という意見はまったく出ないです。もちろん無駄にコストをあげたり過剰な梱包にはしませんが、”お客様の体験や利便性を最優先する”という意識を社内全員で共有しているためではないかと思います。
可能な限り高いコストパフォーマンスで展開していくことは大前提ではあるが、ペットの家族として「こうであったら嬉しい」という要素を大切にしている。ミッションを出発点に、その意識は梱包資材にまで行き渡っているのだ。
サブスクだからこそ速度が問われる。shizaiとの連携で改善サイクルをスピード化
2020年にshizaiがパートナーとなる以前にはどのような課題があったのだろうか。国井氏は、以前の資材会社は最低ロットが大きいため小回りを利かせるのが難しく、また資材の専門知識がないため資材会社との意思疎通も思うように図れなかった、と当時を振り返る。
油谷 お客様が増加し「外装箱の内部に水が沁み込んでいた」といった声が出てくるようになっている中、課題解決のためにどうするかについて御社と資材会社とのやりとりがスムーズではない印象を、当時抱いていました。
国井 外装箱の水濡れなども、一度だけ届くものであれば配送時に何かあったのだろうかとお客様もお考えになるかもしれませんが、PETOKOTO FOODSはサブスクリプションで定期的に届くもの。外装箱のコンディションがイマイチな状態で届く事象が連続すると、きっとモヤモヤと不信感が溜まっていって、結局解約の原因になってしまうこともあると思います。ですから、そういった課題も地道に改善していくことも、継続率につながるのではないかと思っています。
当時はユーザーが順調に増加する一方で様々な課題も顕在化し、パッケージについても改善が必要な時期であった。特にサブスクリプションではささいなネガティブ体験でも蓄積すれば見過ごせないものとなり、解約といったLTVの低下につながる。事業成長に合わせてパッケージも進化させ、顧客体験の質を向上させていくことがサブスクリプションモデル伸長のキーポイントになるのだ。
shizaiはこうした課題にどう取り組んでいったのだろうか。例えば、一箱の中にPETOKOTO FOODSのパウチを規定数量である12個や24個、36個をきれいに収めるために細かな設計を行っており、その具現化には密なコミュニケーションが必要であった。shizaiでは、デザイン担当の国井氏と綿密な打ち合わせを行うほか現場で状況を確認してもらう、といった対応をしていった。冷凍品の配送で起こりがちな「外装箱の内部に水が沁み込む」という課題については、一次工場とのネットワークを生かし、それまで実現できなかった撥水加工を実現した。shizaiでは全国500カ所以上に及ぶ一次工場のネットワークを構築しているため、幅広い提案が可能となっている。
こうしたshizaiのコミュニケーションについて、PETOKOTOはどのように評価しているのだろうか。
国井 社内外から意見が寄せられたり課題が生じた時に、slackで油谷さんに相談すればすぐに回答をいただけて、確認に時間を要する場合であればその旨を伝えてくれます。レスポンスの早さが今まででダントツなのもshizaiさんの特長だと思いました。さらに私たち現場担当者や弊社の想いや意図を汲んでくれることがとてもやりやすいと感じます。
油谷 通常の資材会社さんは御社のビジネスを理解するところから始めるのではなく、資材を納品するということに留まるのでは、と思います。けれどshizaiは、ご相談いただくまでの状況や経緯を理解して進めますから、ご相談やご要望をいただいた方がむしろやりやすいですね。
梱包資材開発の背景を理解し、スピード感をもってコミュニケーションが図られていることがうかがえる。
三浦 弊社でこれまで調達してきた細々した梱包資材も、お取り扱いの有無を気軽に質問でき、かつレスポンス早くご対応いただき、日々の業務において非常に助かっています。
油谷 当初は箱だけでしたが、今は袋もご納品しています。弊社は段ボールだけではなくあらゆる資材を扱っており、トータルで発注できると御社としてもコミュニケーションコストが軽減されますよね。
こだわりの発揮が事業の強化に。ビジネスに「伴走」する資材パートナーの存在が成長のカギ
D2Cビジネスをスタートさせる際、資材会社の選択はどのような点を考慮するべきなのだろうか。国井氏と三浦氏はこうコメントする。
国井 小ロットと大ロット、どちらが得意か資材会社によって分かれると思います。けれど、shizaiさんは両方できる。スタート時は小ロットで発注したとして、ビジネス規模が大きくなっても発注先を変えず継続的にお付き合いできる会社がいいと感じますね。
三浦 事業が成長すれば規模感も大きく変わっていきますよね。スタートアップ企業で資材のプロフェッショナルが在籍しているところはほぼないと思います。ですから、資材についての初歩的な質問にも快く回答してくれ、ビジネスの成長にも伴走してくれる会社とお付き合いするといろいろと学びがあるし、利益も生み出せるのでは、と思います。
PETOKOTOの場合、継続的に付き合えて疑問や課題もざっくばらんに相談できるshizaiをパートナーに選択したことが現状につながっているようだ。
D2Cやサブスクリプションなど「モノが動く」ビジネスにおいてパッケージは非常に重要であり、また事業内容によって難易度も様々である。PETOKOTOの場合は冷凍でフードの鮮度を維持し、かつパウチに名入れすることでペットを愛する顧客の想いに寄り添っている。そういった独自のこだわりを資材面でも十分に発揮させていくことが事業強化につながる。
さらなる飛躍に向けて、shizaiに今後、どんなことを期待するか伺った。
国井 利便性の向上に関する素材や技術、新しい環境配慮素材など、製品がより良くなるための情報をどんどん教えていただきたいです。
三浦 商品を開発し、そこからパッケージを設計するという流れが一般的だと思うのですが、逆に、既存パッケージを転用するアイディアや資材のナレッジを共有していただけるとすごく助かります。
油谷 弊社も現在、工場のネットワークを積極的に増やしています。御社のお客様がどのようにパッケージを利用していらっしゃるのかイメージできればいろいろなアイディアが浮かびますので、これまで以上にアグレッシブにご提案できるよう、今後さらに尽力したいです。
背景に至るまでの深い事業理解のうえで展開するコミュニケーションと、資材についての幅広い知識で、shizaiはサブスクリプションビジネスの成長に伴走する。