近年、オンラインや非接触のコミュニケーションが活発になり、リアル店舗を主戦場としていた小売業者がEC販売に乗り出すケースが増加している。そんな中、小売大手の株式会社そごう・西武はOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」を展開。リアル店舗とECショップの垣根を取り払って融合させた、新しい業態だ。「意味に出合い、意志を買う。」をコンセプトに、開発背景に思いやストーリーのあるブランドの商品をセレクトしてラインアップ。「ギフト」をテーマとして店舗づくりや商品展示を行い、高頻度のSNS発信で多くのユーザーを惹きつけている。
既に1000件以上のメディア露出実績を有するなど各方面の注目を集める「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、さらなる成長に向けて何を重視しているのか、そしてその挑戦の中でパッケージはどのような役割を担っているのか。資材領域のサプライヤーを務めるshizai共同創業者兼取締役の油谷大希氏とともに追究する。
株式会社そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYA ディレクター 伊藤 謙太郎 氏(写真左)
広告代理店、IT企業勤務を経て、20年9月から現職。21年9月、西武渋谷店に「チューズベース シブヤ」をオープン。
株式会社そごう・西武 CHOOSEBASE SHIBUYA SNS担当 林 玲奈 氏(写真右)
オンラインとオフラインを掛け合わせた顧客接点を創出するべくSNSを運用中。パッケージデザインも重要な顧客接点と考え、Instagramで配信。@choosebase_shibuya
小売業はまだまだ可能性を秘めている。オンラインとオフラインの融合で新たな仕組みを確立
「CHOOSEBASE SHIBUYA」は小売業大手のそごう・西武が2021年9月にスタートさせたメディア型OMOストアである。特徴の1つが購入のスタイルで、西武渋谷店パーキング館1階にあるリアル店舗に展示された商品に値札はなくQRコードがつけられている。ユーザーはそれをスマホで読み込んで欲しいものをインターネット上のカートに入れ、店舗のレジに向かう。会計を済ませると、商品を持ち帰る(店舗受け取り)か、配送するかを選ぶことができる。商品はオンラインストアで購入することも可能だ。
百貨店のマーケットは成熟しきっているが小売業自体はマーケットサイズが大きく、インターネットを活用して新たな仕組みを構築することでさらなる成長が狙えるのではないかと考えた、と「CHOOSEBASE SHIBUYA」ディレクターの伊藤謙太郎氏は振り返る。
伊藤 当時、活況を迎えていたD2Cモデルを活用できないかとも思ったのですが、情報収集の中で、実はオフラインの方が顧客獲得効率が良いのではないか、と感じることも。そこで、オンラインとオフラインを掛け合わせた展開を構想しました。
また、オンラインで購入した場合に「手元に届いたらサイトで目にした印象と違った」ということがまま生じるが、そうした体験はユーザーのブランドに対する好感度や信頼を大きく損ねてしまう。実際に見て確認してから購入したい、という意識はユーザーの中に確実にあり、OMOの業態であればそのニーズに応えられると思った、と伊藤氏は語る。
「意味に出合い、意志を買う。」をコンセプトに掲げる「CHOOSEBASE SHIBUYA」は、商品のセレクトについても独自の戦略を持つ。
伊藤 多額の研究開発費をかけてつくり上げている大手メーカーの商品はやはり物がいい。けれど、そうした大手メーカーのものではなくても、つくり手の思いや、その商品が生まれるまでのストーリーにプレミアム性を感じて購入するユーザーは多いと考えています。ですからそういった点を考慮して取り扱う商品をセレクトさせていただいていますし、リアル店舗やオンラインストアでは各ブランドや商品のストーリーを伝えることを意識しています。
油谷 おっしゃる通り、そういったストーリーのもとに商品を開発するD2C企業は多い一方、小売の業態の中でそれを伝えるのは非常に難易度が高いのではないかと思います。多種多様な商品が展示される中で「どう目立ち、購入してもらうか」といういわゆる“棚の中の勝ち方”を重視するのではなく、つくり手の思いや開発の背景をしっかり伝えられる売場になっているということも、多くのお客さまを惹きつける理由の1つとなっているのではないでしょうか。
伊藤 わかりやすく伝えるためにテーマを設定しており、オープン当初は「サステナブル」、現在は「ギフト」を軸に店舗づくりや商品のセレクトを行っています。ストアにテーマを設定することで、なぜその商品を選ぶのか検討する際にそれぞれの背景やストーリーを意識するきっかけになるかな、と考えています。商品の機能面を軸にした見せ方はしていないですね。
オンラインとオフラインを融合させている「CHOOSEBASE SHIBUYA」。オンラインでは利便性、オフラインではWOW体験という顧客体験の提供を目指している、と伊藤氏は言う。特に利便性については、「商品ごとの単品管理が行き届かず在庫情報のデジタル化もされていないため、ユーザーが欲しい商品の在庫を把握できない」という、リアル店舗が従来抱えてきた課題を、オンラインとオフラインで在庫情報をリアルタイムで同期させるという手法で解消してその向上を図っている。
工夫を凝らしたSNS発信で多くのフォロワーを獲得。パッケージを購買体験の一部として位置づけ、UGCも発生
「CHOOSEBASE SHIBUYA」Instagramアカウントのフォロワーは約4万人(2023年6月時点)。「ギフト」というテーマに根差した頻度の高い発信により、そごう・西武関連のアカウントの中でもっとも多くのフォロワーを獲得している。ユーザーとのタッチポイントとなるSNS関連の業務を担当しているのが林玲奈氏である。
林 「CHOOSEBASE SHIBUYA」発足当初はリアル店舗がいわゆる「映える」空間であったこともあり、流行に敏感な若年層の方がフォローしたり店舗で撮った画像をアップされることが多かったのですが、テーマが「ギフト」に切り替わった1年ほど前からフォロワーの属性にも変化が見られるようになってきました。
リアル店舗でショッピングされたお客さまに「CHOOSEBASE SHIBUYA」を何で知って来店されたのかを尋ねると、約半数が「Instagram」と回答されるそうだ。
油谷 私もフォローしていて、「CHOOSEBASE SHIBUYA」の投稿を見ています。shizaiが携わっている配送箱を開く動画もアップされていて、ありがたいですね。
林 Instagramを見て、「ギフトにしたいので、こんな風にラッピングしてもらえますか?」とお客さまからご依頼いただくこともあるんですよ。
油谷 「どんな状態で送られて相手の手元に届くのか」を具体的にイメージしたいという、贈る側のニーズにも応えているということですね。
パッケージは「CHOOSEBASE SHIBUYA」のオンラインストアで購入したユーザーにとっては最初のタッチポイントであり、リアル店舗で配送を希望された方にも購入体験を改めて振り返る機会を提供している。「CHOOSEBASE SHIBUYA」では、パッケージの役割をどのように捉えているのだろうか。
林 購買体験のプロセスの一部だと捉えています。配送箱が届いて開けた瞬間にテンションが上がり、「CHOOSEBASE SHIBUYA」でのショッピングはすごく楽しい!と感じていただくことを意識しています。
油谷 多くの企業はスモールスタートで、パッケージも既製の無地のものから始めてビジネスの成長に合わせてオリジナルデザインに切り替えるケースが多いのですが、御社では最初からオリジナルデザインの配送箱を開発しましたね。
林 今の時代は販売チャネルが多様で欲しい物をいろいろなところで購入できるので、物で差別化を徹底するのは難しい。ですからパッケージも含め、さまざまな面から「CHOOSEBASE SHIBUYA」ならではの購買体験を提供することを、とても大切にしています。
先述の通り、「CHOOSEBASE SHIBUYA」ではリアル店舗での購入でも、商品を持ち帰るか配送するかを選択できる。オンラインストアでの購入者を含めると60%にも及ぶユーザーが配送を選んでおり、パッケージが活用される機会は多い。
林 ふたの裏に記載されたメッセージにコメントを添えるなど、配送箱の画像をSNSに投稿するUGCも発生しています。
油谷 敢えて「CHOOSEBASE SHIBUYA」で買う意味をつくるための要素の1つとしてパッケージを捉えてくださるのは本当にうれしいです。現在のものに至るまで、いろいろ試行錯誤もしましたよね。パッケージのどんな点に、お客さまからの反響が寄せられているのでしょうか。
林 特定のポイントがというより、箱自体の印象、見た目が可愛らしくて写真を撮りたくなるようです。
油谷 外側のクラフトとふたを開いた時に目に入る内側の色みとのコントラストや、ふたの裏側のメッセージの見え方などが、「CHOOSEBASE SHIBUYA」ならではの独自性があってすごくいいですよね。
林 内側の色みもいろいろなカラーで試作していただいて、最終的に現在のスミレ色に着地して。パッケージは店舗の空間ともマッチしていて、「CHOOSEBASE SHIBUYA」の世界観の確立につながっていると感じています。
アイデア段階から伴走。トライ&エラーでカタチにする資材のプロが新たな挑戦の中で力強い味方に。
「CHOOSEBASE SHIBUYA」のスタートに際し、パッケージについては複数の資材会社とコンタクトを図ったものの、イメージの具現化になかなかたどり着けなかった、と伊藤氏。偶然shizaiのプレスリリースを目にし、新たな挑戦で梱包資材領域に風穴を開けようとする姿勢に「CHOOSEBASE SHIBUYA」と通じるものを感じて問い合わせをされたそうだ。
油谷 確かに、購買体験を意識したパッケージ作成の経験を豊富に持ち、それを実現するために何が障壁になるか、といったことをお話しできる資材会社はあまりないかもしれませんね。
林 新規事業でスケジュールもタイト、その一方で要件も固まっていない、という状況でしたが、スピーディにサンプルを用意したり、こちらに寄り添い一緒に考えて提案してくださる姿勢はshizaiさんならではのものだと感じました。
油谷 仕様がすでに決まっていると検討内容がコスト面ばかりになりがちですが、「何を実現したいのか」を教えていただけると、素材や形状といった元のところからアイデアを膨らませて一緒につくっていくことが可能になります。林さんは事前に参考事例を数多く集めていて、カタチにしたいもののイメージが見えていらしたのだと思います。「パッケージでこういう購買体験を実現したい」という考えを伝えてくださるので、弊社としてもご提案しやすかったです。
林 この会社とであれば限られた時間の中であっても一緒により良いものをつくっていけるのではないか、という思いがあって、shizaiさんとタッグを組むようになりました。
新たな取り組みはいろいろと要素が確定していないことも多い。ビジネスサイドの課題をくみ取ってカタチに落とし込んでいく姿勢が評価されたようだ。
林 ギフトラッピングボックスも、自立させたいけれどそれが難しいといった、次々と出てくる課題の解決に向けてその都度フレキシブルに対応していただけたのはありがたかったです。
油谷 手紙をイメージさせるデザインのボックスを自立させたいというご要望については、試行錯誤の結果、内部に薄い段ボールを仕込んで補強することで実現できました。「ギフト」というテーマを象徴するような良いパッケージになったと思います。
林 店舗のレジに飾ったところ、お客さまから「このパッケージに入れてもらえるならここでショッピングしたい」という声も寄せられたんですよ。
リアル店舗に主軸を据えながらオンラインチャネルの活性化に取り組む企業は増加傾向にある。オンライン販売に取り組む小売企業に対し、パッケージの開発や資材会社の選択についてどのようなアドバイスができるかをお聞きした。
伊藤 パッケージは顧客体験を構成する大きな要素となります。こういう体験をつくりたい、ユーザーにこのように感じてほしいという「やりたいこと」がどの企業にもあると思うのですが、shizaiさんのようにそれを具現化するためのアイデアを豊富に持っていたり、さまざまな課題の解決に向けて併走する姿勢のある資材会社を選ぶことが、目指す顧客体験の実現につながるのではないでしょうか。
油谷 私も、「どういう体験をお客さまにお届けしたいか」というところからパッケージ開発をスタートさせるべきだと改めて感じています。ハード面だけを気にすると納期やロット、コストといった制約が当然出てきますが、目指す顧客体験を提供するためにそうした制約をどうやって乗り越えていくかを一緒に考えることが重要だと思いますね。
特に顧客体験を重視する企業の場合、柔軟な対応力のある資材会社を選択することがカギとなりそうだ。shizaiは全国500社の一次工場とのネットワークを有しており、素材や加工方法など幅広い提案ができるため、課題や制約にもフレキシブルに対応して解決に導くことが可能となっている。
顧客とのつながりをさらに深く、長くするために。事業の成長を資材領域から後押し
「CHOOSEBASE SHIBUYA」の成長に向けて、今後shizaiにどんなことを期待するかを伺った。
林 現在、2サイズの配送箱があるのですが、商品ラインアップも充実してきたので、ポスト投函できるサイズでも受け取るお客さまのテンションが上がるような配送箱をつくりたいですね。実はさらに大きいサイズの配送箱もあるのですが、あまり数が出ないだろうと予測してシンプルなデザインになっています。これについても、もっと顧客体験が向上するようなものをつくりたいと考えています。
伊藤 私はデザイン変更の頻度を上げたいですね。サブスクリプションサービスを提供している企業の中には定期的に配送箱のデザインを変えているところもあって、届くたびにワクワクする顧客体験を参考にしたいです。また、リピーターの方にはスペシャルデザインの配送箱を使用するのもいいですね。
油谷 色を変えるのであれば型や版を変えずにできるので、コストを抑えて印象をリフレッシュすることができます。スペシャルデザインの配送箱もいいですね。顧客と長く付き合うための仕掛けを、パッケージの面からも後押しできればうれしいです。
ワクワクするような独自の顧客体験をさらにたくさんのユーザーに届けるために、そして多くの顧客から長く愛されるOMOストアとしてその地位を確立するために。さらなる躍進を目指す「CHOOSEBASE SHIBUYA」にshizaiは資材領域のプロフェッショナルとして寄り添い、伴走していく。